【固定残業代・みなし残業】計算例と仕組みを徹底解説
お疲れ様です。企業の求人票作成代行をしているベンゾー(@zangyoujigoku)です。
今回は「固定残業代(みなし残業)」という制度について、解説をしていきます。
この記事で伝えたい結論
- 固定残業=みなし残業
- 本来は残業抑制や事務作業効率化が目的
- 本来の金額よりも給料が高く見える
- 違法なことをしている企業も多い
転職活動をしている方にとって、「給料」は転職先を決める上で大事な要素。
では「固定残業代」という制度を知っていますか?
おそらく知らない方が大半じゃないかと思います。
実は「固定残業代」を採用している会社の給与は、非常に高額に見えるんです。
「高額に見える」というように、実際は高額ではないんです。
今回、本業で企業の求人票作成代行をしている僕が、「固定残業代」について解説をしていきます。
この記事でわかること
- 固定残業代やみなし残業の制度について
- 制度の問題点、注意すべきこと
- 「本当は給料が安い」具体的な計算例
- 違法な事例
固定残業以外にも求人票にはチェックしておくべき項目があります。
その他の項目については「求人票の見方|ブラック企業を避けるために見るべき項目と知るべき制度」で紹介しています。合わせてご覧ください。
固定残業とみなし残業は同じ
まず固定残業と似たような用語で「みなし残業」というものがあります。
ややこしくなるといけないので、最初に言っておきます。
固定残業とみなし残業は呼び方が違うだけで、まったく同じ制度です。
固定残業とは?一定時間までの残業代を固定化する制度
まずは固定残業という制度について解説をします。
ざっくりと説明すると、「一定時間までの残業代はすべて〇〇円とする」という制度です。
固定残業というのは、あらかじめ決めておいた時間までなら、残業代を定額にできる制度です。
例えば「残業30時間までは6万円を固定残業代として支払う」といった感じですね。
固定残業の本来の目的と使い方|会社側のメリット
残業の抑制|早く帰っても給料が同じ
固定残業代は残業時間の抑制に有効な制度なんです。
従業員目線で考えると、一定の時間までであれば、どれだけ働いても給料が変わらなくなります。
つまり毎日定時で帰っても、固定残業の時間ギリギリまで働いても同じ給料というわけですね。
会社目線で考えると、従業員が早く帰ってくれるなら、翌日の仕事能率アップや健康促進に期待できるというメリットがあります。
また、近頃は長時間労働に厳しくなってきているので、生活残業をするような従業員への対策として有効な手段なんです。
事務作業の効率化|給与計算が楽になる
みなさんの給料はおそらく会社の総務課の方が計算されていると思います。
その総務課の方の作業効率化として、固定残業代は有効な制度なんです。
残業時間の集計って実は結構大変な作業なんです。
従業員の出退勤時間を集計したり、休憩時間を差し引いたり、深夜労働がないか確認をしたり。
そんな作業を給料の締め日から支払日の間に終わらせないといけません。
会社によっては、残業の集計だけは翌月の給与に加算することにして、時間的な余裕を作るところもあります。そのくらい残業の集計は面倒な作業なんですね。
ところが固定残業代制度を使っている場合は、はみ出さない限り同じ給料になりますよね。
そのため給与計算にかかる時間を大幅に減らすことができるのです。
会社側からすると業務効率化として有効な制度ということです。
固定残業の問題点と計算方法
本来の金額よりも給料を高く見せられる
固定残業は、本来の金額よりも給料を高く見せることができるんです。
転職活動をする中で注目するポイントの1つとして「給与」がありますよね。
雇用契約書や求人票で給与を記載するとき、基本給の他に手当を書いたりします。
このとき普通は「残業代が〇〇円」とかって書くことはできません。
だから・・・
- 基本給や手当が低い
- 残業が多いから残業代で給料が高くなる
こんな会社は、雇用契約書や求人票上では給料が低く見えるんです。
しかし固定残業代の場合は、雇用契約書や求人票に金額を書くことができます。というか書かないとダメです。
だから・・・
- 基本給や手当が低い
- 固定残業代を高く設定
こんな会社は、雇用契約書や求人票上では給料が高く見えるんです。
給料が高く見える具体的な計算例
以下のようなA社とB社があります。
A社 | B社 | |
勤務時間 | 1日8時間 | 1日8時間 |
休日 | 土日 | 土日 |
基本給 | 200,000円 | 210,000円 |
営業手当 | 20,000円 | 30,000円 |
月の残業時間 | 35時間 | 35時間 |
固定残業制度 | 30時間分の固定残業 | 固定残業は無し |
※赤文字の部分がA社とB社の違いです。
A社よりもB社の方が、基本給も営業手当も1万円ずつ高い。
そしてA社では30時間分の固定残業制度を利用しており、B社では利用していないという設定です。
この場合、雇用契約書や求人票で記載できる給与額は以下のようになります。
A社 | B社 | |
基本給 | 200,000円 | 210,000円 |
営業手当 | 20,000円 | 30,000円 |
固定残業代 (30時間分) |
46,875円 | 0円 |
合計 | 266,875円 | 240,000円 |
この時点だと、ぱっと見ではA社の方が給料が高く見えませんか?
しかし実際にA社とB社で35時間の残業をした場合、支払われる給料は以下のようになります。
A社 | B社 | |
残業時間 | 35時間 | 35時間 |
基本給 | 200,000円 | 210,000円 |
営業手当 | 20,000円 | 30,000円 |
固定残業代 (30時間分) |
46,875円 | 0円 |
残業手当 | (はみ出した5時間分) 7,813円 |
(35時間分) 47,728円 |
合計 | 274,688円 | 287,728円 |
結果はB社の方が287,728-274,688=13,040円高いということになります。
「雇用契約書や求人票ではA社の方が高そうに見えるのに、実際はB社の方が高い」という例でした。
もちろんA社に入って残業が30時間を超えないように働けば、その方が得します。
しかし、このような狙いのある会社では、だいたい固定残業代として設定した時間(今回でいう30時間)を超えるのが常態化しています。
ちなみにこの手法は違法ではなく、合法です。したがってA社に入ってから気が付いても、「理解してないあなたが悪い」と言われるだけです。
ブラック企業によくある違法な事例
固定残業代を使う場合、以下の内容を雇用契約書や求人票で明記するように周知されています。
① 固定残業代を除いた基本給の額
② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③ 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
※厚生労働省-固定残業代に関するパンフレットより引用
しかしブラック企業の中には固定残業について明記せずに使っていたり、記載内容に反した運用をしているケースが見受けられます。
求人票や雇用契約書に、金額や時間の記載がない
従業員が知らない内に実は固定残業で働かされていた。そんなケースがあります。
違法な固定残業
- なんとなく営業だから営業手当を払っており、いつの間にか固定残業扱いになっていた
- 「固定残業とする」という記載はあるけど、具体的に何時間分なのか記載していない
給与明細を見て残業代の支給が無かったから確認をしてみたら・・・
というようなケースですね。これは明らかに違法です。
一定時間を超えても追加の残業代が出ない
固定残業代使っている=残業代は一切払わなくて良い
というように誤認している経営者も少なくありません。(わざと誤認しているのかも・・・)
もちろんこれも違法です。
というケースですね。
実際に残業をしている時間に比べて、明らかに固定残業代の金額が少なければ違法の可能性が高いですね。
そもそもこういったケースでは、先に書いたように「固定残業代が何時間分なのか」という旨が明記されていないことが多いので、その時点でアウトです。
固定残業代を除くと最低賃金を下回っている
これは少しわかりにくいです。
「最低賃金」というものがあります。この最低賃金を下回るような時間単価で働かすことは、違法になるという制度です。
経営者の中には・・・
と安心している方もいます。
でも時間単価を計算するときは、固定残業代は除いて計算しなければなりません。
例えば給料総額180,000円の中に45時間分の固定残業代(45,000円)が含まれているとします。
一般的な会社であれば、上記の例だと時間単価は785円くらいになります。
地域にもよりますが、785円という金額は最低賃金を下回っており、直ちに違法となります。
この話を理解するには、固定残業以外に「単価の計算方法」も理解している必要があります。ちょっと難しいですね。
単価の計算方法も知りたい方は「給料が高くても単価は安い?あなたの1時間の価値を労務のプロが解説」をご覧ください。
この記事でわかること
- 所定労働時間が違うと単価が変わる
- 総額は高いけど、単価は安い事例
- サービス残業でどのくらい単価が下がるか
よくわからなかったけど、転職失敗したくないという方へ
固定残業代の仕組みを解説してみました。
でも・・・
- 一通り解説を読んだけど理解できたか不安
- そもそも求人票に嘘が書かれてそうで心配
「もう二度とブラック企業で働きたくない!」そんな方のために「ブラック企業の少ない転職サイトランキング」を作りました!
本業で100社以上の企業の労働実態を見てきた僕が、実際に掲載されている求人票を1社ずつ見ていき、ブラック企業の少なかった転職サイトをランキング形式で紹介しています。
- 実際の求人票を労働の専門家が確認
- この記事で解説した制度も考慮して、求人票の表面上に出てこない労働条件を算出
- 「労働条件の悪い企業=ブラック企業」としてランキングを作成
転職を検討している方は是非ご利用ください。
まとめ|固定残業の計算方法と仕組みを徹底解説
この記事で伝えたい結論
- 固定残業=みなし残業
- 本来は残業抑制や事務作業効率化が目的
- 本来の金額よりも給料が高く見える
- 違法なことをしている企業も多い
固定残業代を使って、求人票上や契約書上は給料が高く見えるというケースを、事例付きで紹介しました。
繰り返しになりますが、ちゃんと運用している場合は合法です。
確かに固定残業の制度は難しいですね。何が合法で何が違法なのかは、すぐに判断するのは難しいと思います。
そういう方には、固定残業を悪用するようなブラック企業をあらかじめ紹介しない転職サイトを利用するのが良いです。
「もう二度とブラック企業で働きたくない!」そんな方のために「ブラック企業の少ない転職サイトランキング」を作りました!
本業で100社以上の企業の労働実態を見てきた僕が、実際に掲載されている求人票を1社ずつ見ていき、ブラック企業の少なかった転職サイトをランキング形式で紹介しています。
- 実際の求人票を労働の専門家が確認
- この記事で解説した制度も考慮して、求人票の表面上に出てこない労働条件を算出
- 「労働条件の悪い企業=ブラック企業」としてランキングを作成
転職を検討している方は是非ご利用ください。
今回紹介した固定残業以外にも求人票にはチェックしておくべき項目があります。
その他の項目については「求人票の見方|ブラック企業を避けるために見るべき項目と知るべき制度」で紹介しています。