残業時間の少ない求人票の罠を徹底解説【変形労働】
お疲れ様です。労働問題の専門家をしているベンゾー(@zangyoujigoku)です。
今回は「変形労働」というブラック企業御用達の制度についてざっくり解説をしていきます。
この記事で伝えたい結論
- 「変形労働」という制度がある
- 合法的にサービス残業をさせられてしまう
- 有給休暇を使うと、残業時間を減らされる
今まで過酷な労働環境にいた方の中には、「次の会社ではゆったりまったりとした仕事をしたい」と考えている方もいるんじゃないでしょうか?
その気持ちはめちゃくちゃわかります!
実際、SEとして残業地獄の中にいた僕は
- 残業や休日出勤の少ない仕事をしたい
- 家族の時間をたくさん持ちたい
という思いで転職活動をしていました。
しかし、求人票から残業時間の少ない会社を探そうとしても、思った通りにならないことがあるんです。
それが「変形労働」という制度。
実はこの「変形労働」という制度、結構働いているにも関わらず合法的に残業時間を少なくされてしまうんです。
注目すべきはサービス残業のように違法じゃないということ。
つまり、文句を言っても「知らなかったあなたが悪い」で片付いちゃうんですね。
- 思っていた以上に働かされる
- しかも残業代が少ない
従業員側からしたらデメリットだらけですね。
この記事を読んで、本当に残業の少ない会社を選べるようになりましょう!
変形労働以外にも求人票の中にはチェックしておきたい項目がいくつもあります。
その他の項目の解説は「求人票の見方|ブラック企業を避けるために見るべき項目と知るべき制度」で紹介しているので、合わせてご覧ください。
変形労働とは?残業が残業にならない制度
変形労働制をざっくり言うと「普通の時間とは違う働かせ方ができる」という制度です。
どんな風に普通の時間と違うのか。
まずは「普通の働かせ方」について解説をします。
次に比較するように「変形労働」について解説をしていきます。
普通の働かせ方とは?1日8時間-1週40時間
まずは「変形労働」を使っていない企業の場合を考えます。(「普通の働かせ方」と表現します)
労働基準法の32条には以下のような決まりがあります。
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
厚生労働省 e-govより引用
この条文を噛み砕いた表現にすると・・・
労働基準法の32条とは
- 1日8時間より長く働かせないようにすること
- 1週間で40時間より長く働かせないようにすること
これらの8時間や40時間という数字を超える場合を「残業」と呼び、割増賃金(1.25倍するやつです)を払わなければなりません。
1日8時間で月曜から金曜まで働いたらちょうど40時間ですね。
つまり土曜日に出勤をしたりすると、40時間を超えるので残業になります。
これが「普通の働かせ方」です。
変形労働制ではどうなる?月単位や年単位で見る
変形労働制を使うと、「普通の働かさせ方」で書いた条件が少し緩くなって、以下のようになります。
変形労働制を使った場合
- 1ヶ月の労働時間から1週間の平均を出したときに、40時間を超えないようにすること
- 1年間の労働時間から1週間の平均を出したときに、40時間を超えないようにすること
つまり、第1週は44時間働いていても、第2週では36時間しか働いていないなら、平均して40時間を超えていないため残業は0時間となるわけです。
これなら週によっては、土曜日に働かせることができますよね。
例えば第1土曜日は出勤日にして、その代わり第2月曜日をお休みにする。といった感じです。
変形労働による従業員のデメリット|相対的に働く時間が増える
変形労働制を使うことで、「1週間で40時間まで」という条件を緩くすることができるという説明をしました。
ただ、ここまでだと単に「働く曜日が入れ替わっただけ」という理解で終わります。
ここからは従業員にとって、具体的にどんなデメリットがあるのかを解説していきます。
結論を言うと「相対的に働く時間が増える」です。
毎月1回、土曜日に出勤(残業代なし)が合法になる|年間休日が減る
ズバリ結論から行きます。
ざっくりと言うと「ほぼ毎月、1回は土曜日を残業ではない出勤日にされてしまう」ということです。
例えば毎月第2土曜日は出勤日(残業代なし)が合法になるということです。
この表現だと、「変形労働」がいかに従業員側にデメリットのある制度かわかりますね。
ではここから解説をしていきます。
通常、土曜日に出勤をした場合、1週間の労働時間が40時間を超えてしまいます。
月~土まで8時間ずつ働けば48時間になりますからね。
だから代わりに他の日で休ませる必要があります。
しかし日本にはほぼ毎月祝日があります。
だから、最初から「代わりに他の日で休んでる」わけです。
つまりほぼ無条件で土曜日を1回出勤日にすることができる。
これが「変形労働」という制度です。
もちろん残業ではないので、残業代も出ません。
つまり変形労働制は会社側に以下のようなメリットがあるんです。
変形労働の「会社側」のメリット
- 年間休日数を少なくすることができる
- 求人票上では残業時間を少なくできる
- もちろん合法
ちなみに例で出したような「毎月第2土曜日は出勤日(残業代なし)が合法になる」というのは、変形労働を使っている企業としては甘い方です。
変形労働を限界まで活用すれば、年間休日を90日くらいにすることも可能です。
ちなみに一般的な会社なら年間休日は120日を超えます。(土日祝日と盆暮れ正月がお休みの会社)
年間休日数については「年間休日〇〇日ってどれくらい?土日祝の休め具合を解説」もご覧ください。
求人票を見ていて、「年間休日110日」って書いてあった場合に、それが多いのか少ないのかわかりにくいですよね。そんな疑問を解説しています。
有給休暇を使うと、残業時間を減らされてしまう
有給休暇の制度について改めて確認しておきたい方は「有給休暇をわかりやすさ重視で解説|使わないなんてもったいない」をご覧ください。
この記事で解説すること
- 有給休暇を使える人
- 使うための理由
- 有給休暇の残日数を計算する方法
- 有給休暇の買取制度
有給休暇というのは、通常であれば従業員からするとノーリスクでお休みを取れる制度ですよね。
例えばプライベートで旅行に行きたいから2、3日有給休暇を取ったとします。それでも給料は減らないですよね。
それが有給休暇です。ここまではご存知の方も多いはず。
しかし「有給休暇+残業+変形労働」という組み合わせがあると、少し話が変わってきちゃうんです。
つまり・・・
- 今月は残業を10時間した
- でも有給休暇を1回使った
という働き方をした場合、有給休暇の8時間分を残業から減らされてしまい、残業時間が2時間となってしまうんです。
もちろん残業代も2時間分しか出ません。
なぜこんなことが起きるのか?
それは残業時間が「実労働時間」を使って集計することとされているからです。
「実労働時間」というのは、有給休暇を使って「働いたことにした」時間ではなく、「実際に働いた時間」のことです。
「実際に働いた時間」だけで集計をするため、有給休暇の8時間分が削られてしまうんですね。
まったりと働きたいから有給休暇をたくさん使ったら、残業代が減って給料が少なくなる。なんてことが起きてしまうわけなんです。
具体例で変形労働を解説
変形労働を使うことでの「従業員側」のデメリットとして・・・
変形労働の「従業員側」のデメリット
- 年間休日数が減る
- 有給休暇を使った分だけ、残業時間が減る
という2つのデメリットを紹介しました。
最後にこの2つを交えて、「普通の会社なら18時間残業」になるのに「変形労働なら2時間残業」になる具体例を出してみます。
A社とB社があり、A社だけ変形労働制を使っていたとします。
そんな会社で、以下のような勤務をした方がいたとします。
- 第1月曜〜金曜まで普通に8時間勤務
- 第1土曜も8時間勤務
- 第2月曜は祝日でお休み
- 第2火曜に有給休暇を使用
- 第2水曜に4時間残業
- 第2木曜は3時間残業
- 第2金曜も3時間残業
- 第2土曜は元々お休み
- 第3月曜以降、月から金まで8時間勤務
この場合、変形労働を使っていないB社の場合は、残業時間が以下のようになります。
変形労働を使っていないB社の場合
- 第1土曜の8時間
- 第2水曜の4時間
- 第2木曜の3時間
- 第2金曜の3時間
- 合計18時間
一方、変形労働を使っているA社の場合は、以下のようになります。
変形労働を使っているA社の場合
- 第1土曜が出勤日であれば残業ではない
- 第2水曜から金曜で10時間残業
- 有給休暇を使っているのでマイナス8時間
- 合計2時間
ちょっと差がすごいですね。
なぜこのような差ができるのかと言うと・・・
- 1日で8時間を超えているかではなく、平均して一定の時間を超えていないかで残業を見る
- 有給休暇を労働時間として見ない
という2点があるからです。
変形労働制を使っている会社と使っていない会社では、これだけの差が出てしまうんですね。
よくわからなかったけど、転職失敗したくないという方へ
年間休日の仕組みを解説してみました。
でも・・・
- 一通り解説を読んだけど理解できたか不安
- そもそも求人票に嘘が書かれてそうで心配
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- この記事で解説した制度も考慮して、求人票の表面上に出てこない労働条件を算出
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まとめ|残業時間の少ない求人票の罠
この記事で伝えたい結論
- 「変形労働」という制度がある
- 合法的にサービス残業をさせられてしまう
- 有給休暇を使うと、残業時間を減らされる
なるべくわかりやすく書くつもりでしたが、ちょっと難しい内容になってしまいました。
全部を理解できなかった方も多いと思います。
そんな方でも「これだけは覚えておいて欲しい」というのが・・・
「変形労働制を使っている会社では、思っているより残業時間が少なくなる」
ということです。
もっと乱暴なことを言うと「変形労働制=ブラック企業」と判断しても良いかもしれませんね。
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- この記事で解説した制度も考慮して、求人票の表面上に出てこない労働条件を算出
- 「労働条件の悪い企業=ブラック企業」としてランキングを作成
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